コロナ以降、不眠やうつが激増したそうです。
さらに不眠は1年以上続くとうつ病になる確率が40倍高くなるということがわかっています。
Aさんは職場の人間関係で悩んでいましたがある日体調を崩して下痢になってから急に眠れなくなってしまいました。
首や背中がひどくこって食欲も意欲もなくなり強い不安を感じるようになります。
ある日出勤で運転中に突然息苦しくなり激しく動悸を感じ、車を停車するも冷や汗やふるえが出てこのまま死んでしまうのではという恐怖を感じました。
その後症状は治まり心臓の検査も異常がありませんでしたが、その医師の勧めで精神科を受診をしました。
これは不眠からうつになりパニック症状を起こした典型的な例です。
(精神的な疾患はこれ以外に様々な種類があります。)
こうした場合病院では睡眠薬、抗うつ剤、抗不安薬などの薬物療法が中心になります。
抗不安薬と睡眠薬は同じ薬(5分類ありその中のべンゾジアゼピン系が中心)で、抗不安効果のより強いものが抗不安薬、催眠効果のより強いものが睡眠薬として処方されます。
抗うつ薬は神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)を増やすことで抗うつ効果を持ちます。
そしてこれらの薬には様々な副作用(眠気、ふらつき、脱力感、吐き気、興奮)やとともに、薬が効かなくなり依存が起きるという問題があります。
なぜ依存が起きるのか。
それは長期間こうした薬を飲み続けると、体は常時薬の成分が体内にある状態に慣れてきます。
その状態で急に減薬や断薬してしまうと体調の狂いが生じます。
(そのメカニズムは完全には解明されていません。)
離脱するのはその薬の服用期間が長いほど、また服用薬の種類が多いほど困難になります。
主な抗うつ薬一覧
|
主なベンゾジアゼピン系抗不安薬一覧
|
「睡眠薬・抗不安薬」のベンゾジアゼピン系では服用1ヶ月で半数に依存が形成されます。
離脱症状は痙攣、痛み、発汗や震え、食欲不振、頻脈、視力障害、視覚障害、口渇、耳鳴り、眠気、光恐怖症、感覚異常など。
パニック障害では抗うつ薬とともに、ベンゾジアゼピン系が頻繁に処方されますが、離脱しようとすると逆に不安とパニック障害を誘発することもあります。
離脱するならゆっくり徐々にすることが原則ですが、その期間については4週間から数年間と幅広い意見があります。
当店でもこれまでに離脱のご相談は何度も経験しましたが漢方薬を服用しつつ少しずつ減薬をしてもらっています。
しかし薬を飲まない期間が続くと、動悸がして脈が速くなり、それが不安を招いて血圧が上昇します。
拍動を抑えたり血圧を下げる薬を医師が処方してもこういう時は効きません。
時には救急車で病院に運ばれますが、その時点ではもう症状が治まっています。
こういうことがあるとご本人様も自信を失い落ち込みますが、しばらくしてまた立ち向かうという繰り返しです。
ベンゾジアゼピン系から離脱に成功するのにだいたい平均で1〜3年くらいかかりました。
なおこういう発作は季節や天候に影響を受けることもあります。
「抗うつ薬」の中断症候群は多くの場合、中断して2〜4日以内に症状が出てきます。
程度や症状は薬により違いますがめまい、耳鳴り、不安、恐怖、不眠、光が点滅している感じ、頭の中に電気ショックが走ったような感覚、光や音に過敏、吐き気など。
ちなみに米国で抗うつ薬とプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を服用させた比較で3か月後の効果が変わらないという報告があります。
またうつ病の患者さんを治療したグループと治療しないグループに分けて15年間追跡比較した研究で治療しない方の改善率が高かったという結果もあります。
一方で抗うつ薬を用いた治療で2週間で5割、4週間で8割改善するという研究もあります。
このため4週間を一つの目安として改善が乏しい場合は、抗うつ薬の変更(SSRIからSNRI、NaSSA他)が検討されます。
ただ抗うつ薬を変えたり複数の薬を追加して治療を続けると、それ以降の改善率は低下し「治療抵抗性」となっていきます。

こうしてみると「脳に作用する薬」の難しさをつくづく感じますが、相談の際のキーポイントは「睡眠状態」をいつも意識しています。
そもそもベンゾジアゼピン系を服用してすぐは眠れても、その睡眠は浅くだんだん熟睡感が得られなくなります。
抗うつ薬は脳内の神経伝達物質(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)を増やしますがこれらは覚醒方向に働きますのでやはり不眠になることがあります。
(逆にリフレックスという薬はかなり眠気が起きますので離脱するときに逆に眠れなくなります。)
つまりこうした薬を服用していて睡眠の正しいリズムが保たれている方はまずおられません。
この時に減薬や離脱をするしないに関わらず漢方薬を補助として使用するのは効果があります。
少しでもよい睡眠ができれば気持ちも落ち着き前向きになれます。
Aさんは病院の薬とともに漢方薬二種類と生薬を併用していただきまずは睡眠を改善しました。
発作時に頓服する漢方薬はいつも携帯するようにしていただきました。
その後体調がよくなるにつれて発作の間隔が長くなり、発作も軽くなるにつれ自信が出てきました。
仕事も普通にこなすことができてよいリズムに乗ることができました。
たまに不安を感じることがあるようですがその時は漢方薬を短期で再開していただいてます。
脳腸相関
ヤクルト1000で眠れる方がいる理由はまだはっきりわかっていませんが、一つの可能性として腸内環境が整えられると脳内のセロトニンが増加することが確認されています。
脳にも腸にもセロトニン受容体が存在する、腸でGABAが産生されるなど密接な関連があり「脳腸相関」と言われています。
腸で作られたセトロニンは脳の関所(血液脳関門)を通過できませんが神経伝達物質(副腎皮質刺激ホルモン放出因子CRFなど)を介して情報が脳に伝えられると考えられています。(内臓知覚)
薬ではない腸による脳への自然な調整機能と言えるかもしれません。
ラットの脳室内にCRFを注入するとストレスホルモンである「コルチゾール」を分泌させます。(ストレス応答)。
すると下部消化管の運動亢進が起き「過敏性腸症候群」の研究に使われます。
またCRF投与によりマウスの腸内の細菌叢にも変化が生じるようです。
過剰なストレスでコルチゾールの分泌が慢性的に増え不眠症やうつ病につながることが分かっています。
気分の落ち込みが続き自分を責めたり罪悪感が強い「メランコリア型うつ病」で特にコルチゾールの増加が起こりやすいと言われています。
抗うつ薬でも不安の強い人や強迫的傾向の強い人にそれぞれ対応する薬を選びます。
脳腸相関に近い知見は東洋医学では肝(ストレス)と脾(胃腸)の関連として昔からすでに存在していました。
またうつは大腸(肺)のエネルギー不足という考え方もあるほどです。
これ以外に脾(胃腸)、心(精神)、肝(自律神経)、腎(内分泌)などに分けていてそれぞれに対応できる処方があるところがメリットです。
これは例えば単にセロトニンを増やそうというミクロ視点ではなく、何が原因でバランスが崩れたのかというマクロ視点と言えます。
漢方薬だけでなく、専門家へご相談の上心理療法や針灸、太陽光などを利用することも有効だと思います。
抗うつ薬の効果はセロトニンでなくBDNF?
近年は抗うつ薬によるモノアミン(セロトニンなど)作用の増強により脳由来神経栄養因子(BDNF)が増強され抗うつ効果が発現しているのではないかという考えが出ています。
となると抗うつ薬の目的・効果は最終的にしBDNFを増強させるということになります。
2011/8/31の産経新聞によりますと広島大学大学院・山脇成人教授の研究グループはうつ病診断の客観的指標として脳内に存在するBDNFに着目し診断方法確立に応用できる可能性を示唆されました。
このBDNFが生薬により増加するという報告もあります。
太陽光線と脳
太陽光線が体内のビタミンDを増やすのは有名ですが「セロトニン」も増やします。
セロトニンは太陽光線を浴びたり、運動をしていると分泌されることが分かっています。
別名「幸せホルモン」とも呼ばれる通り、セロトニンが十分に分泌されていると、睡眠の質が向上する、ストレスを貯め込みにくくなるなどのメリットがあります。
また「痛み」についても関係があります。
人の関節や骨格からはほとんど絶えず何らかの弱い痛み信号で出ていますが、健康なときはこの信号を無視していて痛みは感じません。
しかしセロトニンやノルアドレナリンが不足すると痛みを感じやすくなります。
またうつ病でドーパミンが少なくなっても痛みを感じやすくなります。
抗うつ薬(サインバルタ)はセロトニンやノルアドレナリンを増やしますので最近は治りにくい慢性痛にも処方されるようになりました。
太陽光線はセロトニン、さらにドーパミンを分泌させます。
また太陽光線にてビタミンDが産生されるとセロトニン・ドーパミンの合成・放出を促進します。
